寝床を転がる気配を背中に感じて、柊は千尋を振り返った。少女は薄布にすっかりくるまって、みの虫のような姿をしている。完全武装の趣に、男は彼女に向き直ると、苦笑して尋ねた。
「我が君、まだお休みにならないのですか」
「もう少しだけ。柊は、先に眠って？」
「……なにか心配事でもおありですか？」
愛おしそうに頬に触れる男に少女は優しげに微笑んだ。
「ううん。でも何だか眠るのがもったいなくて。暖かくて、気持ちがいいし。それになんだか、安心して」
そんなお言葉をいただけて、私は喜ぶべきなのでしょうか……しかし何故でしょう、あまり嬉しくありません。柊はそう言いかけて止めた。みの虫が恨めしい。
「柊は眠って」
千尋は繰り返した。柊は布から出ている彼女の手を取り上げ、愛おしそうに口づけを捧げると、静かに瞳を閉じた。
「――そんなことをおっしゃってから、まだ四半時も経っておりませんよ、我が君」
「ん……」
眠りに誘われはじめた千尋の髪をもてあそび、柊はやるせなくつぶやいた。
「おやすみですか？」
「寝ないよ……？」
不満げにつぶやいて、千尋はあっけなく眠りにおちた。
「……おやすみ、千尋」
夢など見ないよう深く眠りなさい、今夜は夢路で会えそうにありませんから。
すっかり目が冴えてしまった男はつまらなそうにつぶやいて、少女の寝顔を宝物のように眺めた。
終