夕暮れ時のスーパー。野菜売り場の前で、制服姿の少年と少女が買い物をしていた。どちらも人目を引く金髪で、少女の明るい声はさほど広くない店内に良く響いた。
「ねえ。やっぱりそれだけじゃ夕食には寂しいよ」
「そう？」
少年はどうでもよさそうに少女に返した。彼が持つ買い物カゴの中身は、えのき・しめじ・まいたけ・なめこ、とキノコで山盛りだ。
「それにキノコばっかり買いすぎじゃない？」
「そうでもないさ。火を通すとかさが減るだろ」
言いながら少年は、さらにパック詰めの椎茸に手を伸ばした。うんざり顔で少女が口を開く。
「確かにキノコ蒸しはおいしいけど、他にもう一品ぐらいあってもいいよね。こう、バーンとメインになりそうなもの」
「バーンと、ね。みそ汁は作るつもりだけど」
「ごはんの時におみそ汁がセットなのはあたりまえだよ」
少女は呆れたように言って、
「――ねえ、那岐」
少年の制服の袖を恨めしそうに引いた。少女の視線は『○曜日はおさかなの日』と朱書きされたのぼりに熱く注がれている。
「夜に食べ過ぎると太るよ？ でもまあ、足りないって言うんなら魚でも肉でも好きにすれば」
「好きにすればって……私が作るってこと？ ずるいよ！ 今日の食事当番は那岐でしょ！？」
「いいじゃないか。どうせ千尋が食べるんだし」
少年は椎茸のパックを二つ三つみつくろってカゴに放り込むと、どことなくおどけるように肩をすくめた。
「私が何か作ったら、那岐だって食べるくせに」
「そりゃあ、あればね。家には残すとうるさいやつがいるし」
「あっ、待ってよ、那岐。――那岐ってば！」
そっけなく野菜売り場を離れた少年を、慌てて少女が追いかけていく。
「連呼しなくても聞こえてるよ。面倒だから、切り身でいい？」
「え？」
見ると特売の陳列棚に白身魚の切り身が並んでいる。少女は少年と切り身をまじまじと見比べて、やがてぱあっと笑顔になった。
「――うん！ 塩胡椒してキノコと一緒に蒸したらおいしいかも！」
「じゃあ、そういうことで」
上機嫌で3切れ入りのパックを取った少女を見つめて、少年はかすかに微笑んだ。
終