生きるということは
別れをたぐり寄せるようなものだ
人の命は短く、しかしそれゆえに激しい
我はそなたの苛烈なるその生を
すべて我がものにしようと考える
「セイロンのばかっ！」
大振りの平手が飛んできたが、我はそれをすいと避けた
娘は激昂を隠さずに、我を睨んだ
再度殴りかかろうとする小さな手を、我は掴んだ
この娘はときに、ひどく暴力的だ
しかしそうさせているのが他ならぬ我であることを
我はとうに知っている
「わたしはセイロンが、好きなんだよ！？」
娘の告白は、必死で痛ましい
涙で濡れたその瞳を見て、我は思う
そなたは知らぬのだ
だからそんなことが言える
我の永い時間を、この緩慢な生を
そなたは知らぬ
「そなたの短く貴重な命を、我を待つことになど使って欲しくはないのだ」
これは我の傲慢だ
口に出しては言えぬ
知ればきっと娘は反発するだろう
「…どうして、何も言ってくれないの！？」
娘は我の手を振り払うと
おもいきり我の頬を叩いた
相変わらず、容赦も遠慮もない
怒りに燃える目が美しいなどと申しても
そなたはおそらく信じまい？
人の命は短きゆえに、濃縮した時を生きる
そなたが我と過ごした日々は、我にとっては一瞬に過ぎぬ
突き放された娘は、呆然と我を見た
殴られたのは我のほうだが
泣いているのは娘のほうだ。傷ついておるのも
「あなたにとっては取るに足らないことでも
わたしにとっては大切なことなんだよ？」
娘よ、それは逆だ
そなたを否定するわけではない
ただそなたの気持ちと我の気持ちは
同じ秤にかけることはできぬと言っておるだけだ
分をわきまえよ、セイロン
心を残せば、それが娘を縛る
もし娘が望んでも、そうしてはならぬ
娘の生はあまりにも短すぎる
人は我らよりもずっと、時間を濃縮して生きる
子はあっという間に成長し、大人になり、老いて死んでゆく
フェア
我に失望し、すぐに忘れてしまうがよい
どうか、忘れてほしい
我はそなたを忘れることはできぬが
その代わり、そなたを諦めた振りができる
思いは、実らぬと
まるで宣言するように、娘は言った
「それでもわたし、セイロンのこと、好きだから」
我の思いだけが、もう実ってしまっている
娘は実りなど、なくとも構わぬと言う
あっという間に我の前から消えてしまう命が
何も残さずにゆくと言う
魂の循環せぬ楽園、リィンバウム
この地における『死』とは何だ？
『竜』は何を見ている？
苛烈なる生を、そのもっとも緩慢な生で
終