※キャラが頭の悪い方向にぶっ壊れています。ご注意。
※ベースはロンフェアです。一話完結形式？ 待て、次号。
「やーい、フラれてやんの！」
男が床に散ったマキビシを拾い集めていると、天井から陽気な声が降ってきた。
「――ああ、そういえば。店主殿の好きなたいぷを聞きそびれたのう……」
「こらあ！ 卑怯者、アタシを無視すんな！？」
女のノリは弟子と同じだった。
無視を決め込む男にしびれを切らし、彼女は天井の桟からテーブルに音もなく飛び移る。ランプの炎だけが、ほんの僅かに揺らいだ。
「あーっはっはっは！ 月が呼ぶ！ 風が呼ぶ！ 誰が呼んだか風来坊！ ある時はソバ屋のおかもち、またある時は『あかなべ』のかわいーい店員さん！ しかしそれは世を忍ぶ仮の姿……かくしてその正体は、せくしぃくのいち！アカネさんよーーーー！！」
長い長い口上のあと、女はテーブルの上、仁王立ちで決めてくれている。男はうんざりした気分で、せくしぃなんたらを一瞥する。そうしなければ、女はずっとこのうっとおしいポーズを続けるだろう。
「おぬしのように自己顕示欲の強いシノビは早死にするぞ」
「おっ、アンタわかってるじゃん！ ま、美人薄命っていうしね」
女は男の天敵、いやむしろ同類と呼ぶにふさわしい者であった。
どちらも座右の銘は「天上天下唯我独尊」、得意技は「無駄な長台詞」である。ともあれ他人の話をろくに聞かない二人の、ちぐはぐな会話はまだ続く。
「だいたいアンタさあ、あんだけいじめといて、まだ店長に『好きｖｖ』なんて言ってもらえると、まさか本気で思ってんの？ だとしたら厚顔にもほどがあるってば！ あはは、おっかしー！！」
げらげらと笑う女に、男は高笑いで返す。
「ああ、いやこれは失礼した、盗み聞きも満足にできぬ者が、シノビであるはずもないか。おぬしは単に趣味の悪い、こそ泥であったな。あっはっはっは！」
「趣味の悪さはアンタに負けるってば。あ、言っとくけどそのマキビシ、使ったあときちんと手入れしとかないと、すぐ錆ちゃうかんね！」
「む…」
男はマキビシ拾いの手を休め、わざわざ女に向き直り、天を仰いだ。しかし悲しいかな、芝居がかったシカトに肝心のアカネはまるで気づいていない。この鈍感め、と忌々しげに男が口を開く。
「そもそも年頃の娘が気のない男に向かって、あのような質問をするはずがないのだ。故に店主殿の心がどこにあるか、答えは火を見るより明らかだろう。まあ、色気のない食い気だけは三人前の放蕩娘には、これだけ我が丁寧に説明してやっても、これっぽっちも理解できないのであろうが……」
「本人のいないところで勝利宣言もいいけどさ、それってアンタの独りよがりじゃないの？ 店長ってほら、ああ見えて意外に押しに弱いとこあるし。というか、あの子のゴハンっていつも殺人的に美味しいよねえ。おかげでアタシのこの、豊満なないすばでぃも当然悩殺度あっぷ、倍率ドン更に倍ってカンジでウハウハってもんよ！」
フェアが勝手に「親父語」と呼ぶ異世界の言葉については、アカネのほうに一日の長がある。セイロンの苛々した声が辺りに響く。
「ああ……おぬしの場合『放漫』のほうがふさわしいと思うがな」
「へっへーんだ！ アタシに学をひけらかそうったって、そうは問屋が卸さないわよ。いっとくけど、だめーじゼロだから、なっすぃんぐだから！！」
「ああ、心配いたすな。おぬしに言われずとも、猿に人の道理を説こうなど、このセイロン生まれてこのかた、考えたこともないわっ！」
むむむ、と睨み合う両者、飛び散る火花、互いが互いを好敵手と認め合う、不穏かつ高揚した空気が流れる。
「――アンタ、結構やるじゃんか！」
「いやいや、おぬしもなかなかどうして、見所があるぞ」
どういうわけか、いつの間にやら、似たもの同士の二人に友情が芽生えていたのだった！
（待て、次号？）